「財」

白川静『常用字解』
「形声。音符は才。才には材質の意味がある。貝は子安貝の形で、古くは貨幣として使用された。財は財貨・財宝をいう」

[考察]
才は621「才」の項で「聖化され、神聖なものとしてある」という意味としており、なぜ材質の意味になるかはっきりしない。また才(材質)に貝(貨幣)を加えて財貨・財宝の意味を導く過程がすっきりしない。財は財貨・財宝の意味というが、肝心の財とはどういう意味かもはっきりしない。
字形から意味を求めるのではなく、古典の文脈から財の用法を見てみよう。
①原文:不務天時則財不生。
 訓読:天の時に務めざれば則ち財生ぜず。
 翻訳:自然の時をつかまえて[農耕などに]精を出さなければ財物は出てこない――『管子』牧民
②原文:有一衣裳之財不能制、必索良工。
 訓読:一衣裳の財有りて制すること能はざれば、必ず良工を索(もと)む。
 翻訳:衣服の材料がありながら制作できないならば、必ず良い仕立て屋を探すものだ――『墨子』尚賢

①は生活に役立つ値打ちのある金品の意味、②は元として役立つもの(原料・材料)の意味で使われている。これを古典漢語ではdzəg(呉音でザイ、漢音でサイ)という。これを代替する視覚記号が財である。
財は「才(音・イメージ記号)+貝(限定符号)」と解析する。才は「途中で断ち切る」「程よく断ち切る」というイメージがある(643「材」を見よ)。用途に応じて断ち切った木を材といい、基礎となる役立つものという意味を派生する。この派生義のうち特に財貨に関わるものに限定したのが財である。財は材から分化した語である。