「作」

白川静『常用字解』 
「形声。音符はサク。乍は木の枝を曲げて家の垣などを作ることをいう。乍が作のもとの字である。のち作為(つくること)の字として作の字がつくられた」

[考察]
乍はdzăg(呉音ではジャ、漢音ではサ)の音である。乍は「つくる」の意味には使われない。作で初めて「つくる」の意味である。乍を「木の枝を曲げて家の垣などを作る」意味と解釈するのは無理である。
では乍とは何か。乍は刃物で∨の形や<の形に刻み目を入れる状況を表した図形。図示すると∨∨∨∨の形、あるいは∧∧∧∧の形、「ぎざぎざ」のイメージである。乍は「切れ目を入れる」というイメージのほかに、「(ぎざぎざに)重なる」というイメージも示す記号になりうる。また∨や∧の形は「―」(直線)が曲線になった形でもあるから、「間隔が短くなる」「幅が狭い」というイメージにも展開する。最後のイメージから生まれたのが「時間が短い」「急に迫る」というイメージの言葉である。日本語の「たちまち」に当たる。乍の用法は「たちまち」という急な時間を表す。しかし一方では乍のコアイメージである「切れ目を入れる」が別の意味を生み出す。素材に最初の切れ目を入れることによって物をつくり出す。「乍サ(音・イメージ記号)+人(限定符号)」を合わせた作によって、素材に切れ目を入れる情景を設定する。この図形的意匠によって、初めて物をつくるという意味をもつ古典漢語tsak(呉音・漢音でサク)を表記する視覚記号とした。
作は古典に次の用例がある。
①原文:奕奕寢廟 君子作之
 訓読:奕奕たる寝廟 君子之を作る
 翻訳:ずらりと連なるみたまやは 君子がこれをこしらえた――『詩経』小雅・巧言
②原文:式號式呼 俾晝作夜
 訓読:式(もつ)て号(さけ)び式て呼び 昼を夜と作(な)さ俾(し)む
 翻訳:叫び合いどなり合い 昼を夜に変える[ようなばか騒ぎ]――『詩経』大雅・蕩

①は初めて物をつくる意味である。つくるということは手(人工)を加えることであるから、手を加えて何かをする、Aに手を加えてBにする(Aが変化してBになる)という意味に展開する。これが②である。作為・作意の作に「わざと」という意味素があるのは「手(人工)を加える」というコアイメージがあるからである。