「昨」

白川静『常用字解』
「形声。音符は乍サク。乍は木の枝を曲げて垣などを作ることをいう字であるが、乍は古くは徂ソ(ゆく)と音が近くて通用したので、たちまちの意味がある。また昔(むかし)とも音が近く、昔は古くは夕の意味に用いた。音符の乍の関係から、日を加えて“きのう” の意味となった」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなくすべて会意的に説く特徴があるが、本項では会意でも説明ができず、昔の仮借とした(字源の放棄)。しかし「むかし」と「ゆうべ」と「きのう」は時間的に幅があり、同一とは考えられない。
昨は古典に次の用例がある。
 原文:周昨來、有中道而呼者。
 訓読:周昨来りしとき、中道にして呼ぶ者有り。
 翻訳:私[荘周]がきのうやって来た時、道中で呼び掛ける者がおりました――『荘子』外物
昨は今日の前の日(きのう)の意味で使われている。これを古典漢語ではdzak(呉音でザク、漢音でサク)という。これを代替する視覚記号として昨が考案された。
昨は「乍サ(音・イメージ記号)+日(限定符号)」と解析する。乍は素材に切れ目・刻み目をつける図形で、∨∨∨∨の形や∧∧∧∧の形(ぎざぎざの形)に刻むというメージがある(647「作」を見よ)。これは「刻み目が重なる」というイメージに展開する。したがって昨は時が刻まれて積み重なる状況を暗示させる。この図形的意匠によって、今日を起点として後ろの方へ経過して重なった時間を表す。昔もこのイメージであるが、昨は時間的に今日に近く一日前の日のことである。