「索」

白川静『常用字解』
「象形。縄をなう形。上部を木を通して結び、そこから綯(よ)り始めて索状に編み続けてゆくのである。それでなわ、なわなうの意味となる」

[考察]
縄をなうのに木を通すというのが奇妙である。糸が含まれているのは明らかで、分析できる字なのに、全体を象形としたのも変である。
楷書では形が崩れて分析困難だが、篆文では「𣎵+糸」に分析できる。𣎵は𣏕の右側の字。𣏕は柿ハイ(こけら)の本字である。肺の右側ももとは𣏕の右側と同じ。索の上部はこの𣎵であり、勃の左上にも同じ形がある。
𣎵
について『説文解字』では「艸盛んに𣎵𣎵(ハイハイ)然たり」と説明がある。「屮(草の芽)+八(左右に分かれる符号)」を合わせたのが𣎵であり、草の芽が左右に分かれ出る情景である。二つに分かれる前提として分かれていない一つのものがある。一から二になる行為の逆は二から一にする行為である。索は二つに分かれている糸(藁など)をより合わせて一つのものにする行為を表す図形である。この意匠によって「縄をなう」ことを意味する古典漢語sak(呉音・漢音でサク)を表記する。
古典に次の用例がある。
 原文:晝爾于茅 宵爾

 訓読:昼は
爾(なんじ)于(ここ)に茅(かや)とり 宵は爾綯(なわ)を索(な)へ
 翻訳:お前たち昼は野でカヤを刈り 夜は家で縄をないなさい――『詩経』豳風・七月

索は縄をなう意味で、また縄の意味を派生する。