「冊」

白川静『常用字解』
「象形。木を打ちこんだ柵の形。冊は柵のもとの字である。古い字形では木に長短があり、それを横に連ねて編み、扉の形となっている。のちこの扉の形を書冊(書物)の意味に用いるのは、竹簡・木簡を編んだ形がこれに似ているからである」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。冊は柵の形で、また扉の形でもあるから、竹簡・木簡がこれと似た形であるから、冊は「ふみ、かきもの、書物」の意味になったという。
冊が書冊の冊であることは古来の定説であるが、白川はあえて柵の意味とし、書冊の意味は柵や扉と似ているからだという。冊は編・篇を構成する扁や典籍の典にも含まれており、書冊の冊が本来の意味であったことは疑いない。古典に次の用例がある。
 原文:殷先人、有冊有典。
 訓読:殷の先人、冊有り典有り。
 翻訳:殷の先人には書き物や典籍があった――『書経』多士

冊は書物の意味で使われている。これを古典漢語ではts'ĕk(呉音でシャク、漢音でサク)という。これを代替する視覚記号として冊が考案された。これは長短不ぞろいの木や竹を紐でつないで並べた図形である。この意匠によって、竹簡や木簡を綴じたもの(古代の書物)を表す。
書物の意味から、天子が臣下に授ける辞令書や、それで爵位を授けるという意味に転義する(冊命サクメイの冊)。甲骨文字にもこの意味に使われた例があるから、最初から冊に書き物(書物)の意味があったことは明らかである。