「刷」

白川静『常用字解』
「会意。㕞セツを省略した形と刀(刂)とを組み合わせた形。㕞は人(尸)が前の帯から垂らした巾で手(又)を刷(ぬぐ)う形で、ぬぐう、ふきとるの意味となる。刷は㕞と通じて、“ぬぐう、はらう”の意味に用いる。刷は説文に“刮けずるなり”とあるように、木簡などを刮るの意味」

[考察]
㕞は「ぬぐう」の意味、刷は「けずる」の意味で、二つはつながりがないように見える。だから白川は刷の「ぬぐう、はらう」の意味は㕞の仮借とした。「通じる」というのは音が近いということであろう。そうすると㕞と刷は音声上のつながりがあることになり、刷は㕞を音符とする形声文字ということになる。
白川漢字学説には形声の説明原理がなくすべて会意的に説くのが特徴である。しかし㕞は「ぬぐう」、刷は「けずる」としており、会意的説明になっていない。
刷の古典における用例を見てみよう。
 原文:夏頒冰掌事、秋刷。
 訓読:夏に冰(=氷)を頒(わか)ちて事を掌(つかさど)り、秋に刷(はら)ふ。
 翻訳:[氷役人は]夏には氷を配って事務をこなし、秋には[氷室を]はらい清める――『周礼』天官・凌人

刷は掃いたりこすったりして汚れを取る(はらう)の意味で使われている。これを古典漢語でsuăt(呉音でセチ、漢音でサツ)という。これを代替する視覚記号として刷が考案された。
刷は「㕞セツの略体(音・イメージ記号)+刀(限定符号)」と解析する。㕞は「尸(尻)+巾(布)+又(手)」を合わせて、尻の汚れを布で拭き取る情景を設定した図形である。これは「(汚れを取るために)こする」というイメージを表すことができる。刷はナイフなどの道具で汚れをこすり取る状況を暗示させる。これは図形的意匠であって意味ではない。意味は上記の通りである。汚れを取る手段には「水で洗う」もあるが、「掃く」「拭う」「こする」「けずる」のような手段で行うのが刷である。