「雑」
正字(旧字体)は「雜」である。

白川静『常用字解』
「形声。分解すると衣と集とになる。音符は集で、集(あつまる)の意味をも承ける字である。衣を染めるのに、多くの種類の草木の染め汁を使ったのでさまざまな色あいの衣ができた。多くの色が集まりまじることを雑という」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。衣+集(集まる)→多くの草木の染め汁を使ってさまざまな色あいの衣ができる→多くの色が集まりまじると意味を展開させる。
白川漢字学説は図形的解釈をストレートに意味とする。そうすると、どこまでが図形の解釈か、何が意味なのか,渾沌として分かりにくい。「多くの色が集まりまじる」は図形的解釈であろう。雑にこんな意味はない。
意味とは「言葉の意味」であって、言葉が使われる文脈から判断し理解するものである。雜は次の用例がある。
①原文:物相雜、故曰文。
 訓読:物相雑(まじ)る、故に文と曰ふ。
 翻訳:いろいろな物が混じり合う、これを文[模様・あや]というのだ――『易経』繫辞伝下
②原文:知子之好之 雜佩以報之
 訓読:子の之を好むを知れば 雑佩以て之に報ゐん
 翻訳:あなたが私を好きだとわかったから 帯の玉でお返ししましょう――『詩経』鄭風・女曰鶏鳴

①はいろいろなものが混じる意味、②は他のものが混じって純粋ではない、また、主要ではない(種々雑多な)の意味で使われている。これを古典漢語ではdzəp(呉音でゾフ、漢音でサフ)という。これを代替する視覚記号として雜が考案された。
雜は「集(音・イメージ記号)+衣(限定符号)」と解析する。集は「多くのものが一所に集まる」というイメージがある(「集」で詳述)。雜をいろいろな色の糸を寄せ集めて衣を作る場面を設定した。これは図形的意匠であって意味ではない。この意匠によって上記の①の意味をもつdzəpを表記するのである。
②は①からの転義である(雑貨・粗雑の雑)。さらに、入り乱れて統一が取れていないという意味にも展開する(雑然・雑念の雑)。