「桟」
正字(旧字体)は「棧」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は戔サン。戔は戈を重ねて置く形で、薄いものを重ねる、また連ねるの意味がある。木を連ねて作る“たな” や“かけはし”を桟という」

[考察]
戈を重ねて置く形から「薄いものを重ねる」「連ねる」という意味が出るだろうか。戔にこんな意味はない。戔は「少ない」「小さい」という意味がある(『漢語大字典』)。また「連ねる」とは▭-▭-▭の形につなげるのか、▯・▯・▯の形に並べるのはあいまいである。「たな」や「かけはし」は板を▯・▯・▯の形に並べたものであろう。そうすると戈を重ねて置く形(おそらく〓の形)とどんなつながりがあるのか、説明が不十分と言わざるを得ない。
白川漢字学説は形声の説明原理を持たず会意的に説く特徴がある。また言葉という視座がないので字形から意味を引き出す。しかし意味は「言葉の意味」であって字形にあるのではない。言葉が使われる文脈から判断し把握されるのが意味である。棧は次のような文脈に現れる。
 原文:有棧之車 行彼周道
 訓読:桟の車有り 彼の周道を行く
 翻訳:板囲いした戦の車 周の道を通り行く――『詩経』小雅・何草不黄

棧は短く切った板切れをつないで並べたものという意味で使われている。これを古典漢語でdzăn(呉音でゼン、漢音でサン)という。これを代替する視覚記号が棧である。
棧は「戔サン(音・イメージ記号)+木(限定符号)」と解析する。戔は「削って小さくする」というイメージがある(676「残」を見よ)。したがって棧は短く切った小さな板切れを暗示させる。これは図形的意匠であって意味ではない。意味は上記の通りである。図形は意味を十分に表してない。意味は小さな板を▯・▯・▯の形に並べたものであるが、図形は小さな板切れを暗示させるだけである。dzănという語は削って(切って)小さくするという事態に焦点を置く言葉である。
上記の意味から「棚」や「架け橋」の意味を派生する。両者とも板を▯・▯・▯の形に並べたものである。