「酸」

白川静『常用字解』
「形声。説文に“酢なり” とあり、酢の“すい”味をいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では会意でも説明できず字源を放棄している。
形声の説明原理とは言葉の深層構造に掘り下げて、意味を考える方法である。形声文字は「A(音・イメージ記号)+B(限定符号)」の構成法を取る。Aが言葉の深層構造に関わる部分である。酸は夋という記号にコアイメージの源泉がある。
まず酸がどんな意味で古典で使われているかを先に確認しよう。意味は字形から来るのではなく、具体的文脈における使い方に現れる。
①原文:其民嗜酸。
 訓読:其の民は酸を嗜む。
 翻訳:その[南方の]住民はすっぱい食品[す]を愛好する――『素問』異法方宜論
②原文:凡和、春多酸。
 訓読:凡そ和は、春には酸多し。
 翻訳:一般に味の調和[調味の仕方]は、春には酸味を多くする――『周礼』天官・食医

①は「す」の意味、②は味がすい(すっぱい)の意味で使われている。これを古典漢語ではsuən(呉音・漢音でサン)という。これを代替する視覚記号として酸が考案された。
酸は「夋シュン(音・イメージ記号)+酉(限定符号)」と解析する。夋は俊・唆・峻・駿・竣・悛・浚・逡・皴など一連のグループを構成する基幹記号である。これはどんなコアイメージを表しているのか。詳しくは「俊」の項で述べるが、結論を言えば「細くすらりと立つ」「細長い」というイメージである(616「唆」も見よ)。ほっそりとした状態に焦点を当てれば、「細く引き締まる」というイメージにも展開する。これが酸の根底(核)にあるイメージである。どういうことか。中国医学では「酸は収なり」という言い方が示すように、「す」に収斂の効用を認めている。だから「す」を意味する語を表すのに酸が考案された。この図形の意匠は「身を細く引き締めるような効用のある液体」ということである。
「す」を意味する語に酢もある。これは工程から発想されたもの(652「酢」を見よ)。これに対し、酸は性質から発想されて生まれた語である。