「残」
正字(旧字体)は「殘」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は戔サン。戔は戈を重ねた形で、薄く小さいものをうち重ねた状態のものをいう。歹は残骨の形。人の死体の胸から上の骨が残っている形である。ばらばらになって僅かに残されている骨を残という」

[考察]
戈(ほこ)という武器を重ねた形から「薄く小さいものをうち重ねた状態のもの」という意味が出るだろうか。歹が「人の死体の胸から上の骨が残っている形」ならば、歹だけで「残る」の意味になりそうなものである。「薄く小さいものをうち重ねた状態のもの」を意味する戔はこれとどう関わっているのだろうか。
字形から意味を引き出すのが白川漢字学説の特徴であるが、意味の導き方があいまいで分かりにくい。「ばらばらになって僅かに残されている骨」は残の意味だろうか。こんな意味が残にあるのか。ありそうにない。図形的解釈と意味を取り違えている。
意味とは「言葉の意味」であり、言葉が文脈で使われる際に、文脈から判断され把捉されるのが意味である。殘は次のような文脈で使われている。
①原文:惠此中國 國無有殘
 訓読:此の中国を恵し 国に残有ること無からしめよ
 翻訳:この中国をいつくしみ 残酷に物を壊すことのないように――『詩経』大雅・民労
②原文:取彼凶殘。
 訓読:彼の凶残を取る。
 翻訳:あのむごい者どもを捕まえる――『書経』泰誓
③原文:家殘於齊而無憂色、是不慈也。
 訓読:家、斉に残して憂色無きは、是れ不慈なり。
 翻訳:家族を斉国に残して心配しないのは、愛情がないということだ――『説苑』善説

①は物を損なう(殺したり害したりする)の意味、②はむごい意味、③のこる・のこすの意味で使われている。これらを意味する古典漢語がdzan(呉音ではザン、漢音ではサン)である。これを代替する視覚記号として殘が考案された。
殘は「戔サン(音・イメージ記号)+歹(限定符号)」と解析する。戔は「戈(ほこ、刃物)+戈」を合わせて、刃物で物をそいだり削ったりする状況を暗示させる図形。剗サン(削る)の原字である。戔は「削って小さくする」というイメージ、また「小さい」「少ない」というイメージも表せる。歹は関節の骨の下半部を描いた形で、崩れた骨と関係があることを示す限定符号である。したがって殘は刃物で骨を削って小さな破片を出す情景を暗示させる図形である。この図形的意匠によって上記の①の意味をもつdzanを表記した。
①の「損なう、害する」が最初の意味である。生き物を害する→むごい(残酷)と意味が転じた。これが②の意味。「のこる・のこす」は更に転じた意味である。物が壊れると後に小さな破片がのこるから、「のこる」の意味になる。