「糸」
旧字体は「絲」である。

白川静『常用字解』
「会意。糸べきを二つ組み合わせた形。糸は糸たばの形。説文に“蚕の吐く所なり”とあり、“生糸(絹糸)” をいう」

[考察]
字源の説明はほぼ妥当である。ただ「糸たば」というと糸を縒り合わせた束であろう。糸ベキは蚕の原糸そのものであって、まだ手を加えていないものだから、束とはいえない。糸ベキは蚕の繭から出る細いいとの形である。
糸は古典漢語のmek(呉音でミャク、漢音でベキ)を表す視覚記号で、蚕の原糸の意味である。冥・微などと同源の語で、「かすか」「見えない」というコアイメージがある。極めて小さい小数の名(一の一万分の一)にも用いられる。
この糸ベキを二つ合わせたのが絲である。これは古典漢語のsiəg(呉音・漢音でシ)に対応する。原糸を縒った絹糸(シルク)の意味である。siəgという語は子・嗣などと同源で、「小さい」というコアイメージが共通である。
なお漢字の構成要素の一つである限定符号に使われる糸も本来はベキであるが、原糸と限らず、絲シの意味である一般のいとの意味と考えてよい。糸や糸で作るものに関わることを示す限定符号とされる。