「芝」

白川静『常用字解』
「形声。音符は之。説文に“神草なり”とあって、霊芝(めでたいとされる草)の類をいう。国語では“しば、しば草”の意味に用いる」

[考察]
形声の説明原理がなくすべて会意的に説くのが白川漢字学説の特徴であるが、本項では会意的にも説けず字源を放棄した。
芝は戦国末期から秦漢にかけての文献に登場する草の名である。
 原文:臣等求芝奇藥仙。
 訓読:臣等、芝・奇薬・仙を求む。
 翻訳:私めらは芝と珍薬と仙人を求めて参りました――『史記』秦始皇本紀
芝はマンネンタケ科の菌類の名である。赤芝(マンネンタケ)、紫芝( マゴジャクシ)などがある。赤芝は普通霊芝とも称される。仙人の食べ物で、不老長寿になるという言い伝えがある。命名の由来も長寿にちなむ。之は「止(音・イメージ記号)+一(イメージ補助記号)」と分析できる。止は「まっすぐ進む」と「じっと止まる」というイメージをもつ記号である(681「止」を見よ)。之は目標めざしてまっすぐに進む状況を暗示させる図形(実現される意味は「ゆく」)。「まっすぐ進む」は空間的なイメージだが、時間的イメージにも転用できる。したがって、寿命をどこまでも先に進めていく薬効のある草という意匠を「之シ(音・イメージ記号)+艸(限定符号)」によって作り出した。
なお「しば」の意味は日本的展開である。シバはイネ科の草の名である。根茎が地上を這って広がっていく。この特徴から之の「進んで行く」という意味合いを利用して芝をシバに当てたと考えられる。