「使」

白川静『常用字解』
「形声。音符は史。史と使の甲骨文字の字形は同じ。史はᆸ(祝詞を入れる器の形)をつけた木を右手に高く捧げ、殷王朝の祖先の霊を祭る祭りである。地方に出かけて山や川を祭るときは、ᆸをつけた、上が枝分かれしている大きな木を掲げて出かけた。その木を持つ形が使で、祭りの“使者、つかい、使いする” の意味となる」

[考察]
白川漢字学説では史・使・事・吏を同じ字形とする。言葉という視座がない(言葉を無視する)ため、なぜ同じ字形から違った意味が出るのか分かりにくい。字形から意味を引き出すのは恣意的で合理性がない。
使に「祭りの使者」という意味があるだろうか。まずあり得ない。だいたい「祭りの使者」とは何のことか。祭りを行う者ではないだろう。祭りを報告したり伝達する者か。誰が誰に使いを出すのか。あいまいではっきりしない。
使の具体的用例を見てみよう。古典に次の用例がある。
①原文:云不可使、得罪于天子
 訓読:使ふべからずと云はんか、罪を天子に得たり
 翻訳:もし彼を使えぬ役立たずと言ったら 天子からとがめられよう――『詩経』小雅・雨無正
②原文:使民以時。
 訓読:民を使ふに時を以てす。
 翻訳:民を使うには時期を考えねばならぬ――『論語』学而
③原文:子華使於齊。
 訓読:子華、斉に使ひす。
 翻訳:子華[人名]は斉国に公用でいった――『論語』雍也
④原文:使者出、子曰使乎。
 訓読:使者出づ、子曰く、使ひなるかな。
 翻訳:使者が退出すると、立派な使者だねと、先生が言った――『論語』憲問

①は人を何らかの役目や仕事に取り上げ用いる(つかう)の意味、②は役立つように人や物をつかう意味、③人や国のために用事をさせる(つかいする)の意味、④は命令を受けて公用におもむく人(使者)の意味に使われている。これを古典漢語ではsïəg(呉音・漢音でシ)という。これを代替する記号として使が考案された。
まず語源的には、sïəg(使)は史・事・仕などは同源であり、「立つ・立てる」というコアイメージをもつ(683「仕」、684「史」を見よ)。人に命令を下して立ち上がらせ、所定の役目や仕事に取り上げて用いるという意味の言葉がsïəg(使)である。
次に字源。使は「吏+人」から成る。吏は仕事をきちんとまとめて働く役人の意味であるが、「役目を果たす」というイメージを取る。使は「吏(イメージ記号)+人(限定符号)」と解析する。人に指図して役目を果たすように仕向ける状況を暗示させるのが使の図形的意匠である。これによって①~④の意味をもつsïəgを表記する。