「枝」

白川静『常用字解』
「形声。音符は支。支は小枝(十)を手(又)に持つ形で、枝のもとの字。支を支える、わけるの意味に用いるようになって、木の“えだ” の意味を示すために木を加えて枝となった」

[考察]
ほぼ妥当な字源説であるが、意味は字形から出るのではなく、意味は言葉にある。字形は言葉を表記する手段である。字源とは言葉の意味がどのような意匠でもって暗示させる工夫がなされているかを説明するだけである。字形から意味を引き出すのはタブー、禁じ手である。
では枝はどのような工夫がなされているか。その前に枝の古典における用例を見る。
 原文:隰有萇楚 猗儺其枝
 訓読:隰(さわ)に萇楚有り 猗儺アダたる其の枝
 翻訳:沢に生えてるサルナシの なよなよとしたその枝よ――『詩経』檜風・隰有萇楚
枝は植物のえだの意味で使われている。これを古典漢語ではkieg(t∫iĕ、呉音・漢音でシ)という。これを代替する視覚記号が枝である。
枝は「支(音・イメージ記号)+木(限定符号)」と解析する。支は 「个+又」に分析できる(篆文の字体)。个は竹の半分の形である。「个(一本の竹のえだ)+又(手)」を合わせた支は、个の形をした竹のえだを手に持つ情景を設定した図形。个はYを逆さにしたような形で、左右に分かれている。「本体からYの形に枝分かれる」というイメージを支で表すことができる。したがって枝は本体(茎や幹)からYの形に分かれ出たもの、すなわち「えだ」を暗示させる。
支だけでも「えだ」を表すことができたが(680「支」を見よ)、「本体からYの形に枝分かれる」というコアイメージから、物を分けて出す(配分する)という意味に展開する。また、Yの形にポイントを置くと、つっかい棒でささえるというイメージが生まれ、「ささえる」の意味に展開する。支にこのような意味転化が起こったため、本来の「えだ」に対しては枝の表記が工夫されたのである。かくて「配分する」「ささえる」などには支、「えだ」には枝と書いて棲み分けるようになった。