「姿」

白川静『常用字解』
「形声。音符は次。次は人が口を開いて嘆く形。次と口(ᆸで、祝詞を入れる器の形)とを組み合わせた咨シは、祝詞を唱え、嘆き申して神に訴えることをいう。そのようななげき悲しむ女の“すがた” を姿という」

[考察]
次が口を開いて嘆くことならば、姿は「嘆き悲しむ女のすがた」としても違和感はないが、咨(祝詞を唱え、嘆き申して神に訴える)を媒介させるのはどういうわけか。姿は神に訴えて嘆き悲しむ女のすがたの意味だというのだろうか。それなら字源は「咨の省略形+女」の会意となりそうなもの。
しかし次に「嘆き悲しむ」という意味もないし、姿に「嘆き悲しむ女のすがた」という意味もない。これは字形の解釈に過ぎない。図形的解釈と意味を混同するのが白川漢字学説の特徴である。
意味とは「言葉の意味」であって字形から出てくるものではない。言葉が使われる文脈から出るものである。姿は古典で次の用例がある。
 原文:瓌姿瑋態 不可勝贊
 訓読:瓌姿カイシ瑋態イタイ 勝(あ)げて賛(ほ)むべからず
 翻訳:彼女の美しい姿態は どんなにほめてもほめきれない――『文選』宋玉・神女賦

姿は人の美しく整ったすがたや形の意味で使われている。これから、顔や体のありさま、また物のすがたや様子の意味に展開する。これを古典漢語ではtsier(呉音・漢音でシ)という。これを代替する視覚記号として考案されたのが姿である。
姿は「次(音・イメージ記号)+女(限定符号)」と解析する。次は「つぎつぎに並ぶ」というイメージがある(728「次」を見よ)。このイメージは「等間隔にきちんと並んでそろう」「きちんと整う」というイメージに展開する。女は女に関わることを示す限定符号。限定符号の役割は範疇や意味領域を示すほかに、図形的意匠(意味を暗示させるための図案・デザイン)を作るため具体的場面・情景を設定する働きがある。姿は女が身形をきちんと整える情景を設定する。この図形的意匠によって上記の意味をもつtsierを表記するのである。