「指」

白川静『常用字解』
「形声。音符は旨。旨は器の中の肉などを小刀で切る形で、食物の味がうまいことをいう。指はあるいはその食物を指さす意味かと思われる。“ゆび、ゆびさす、さす、さししめす” の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説き、字形から意味を導く特徴がある。旨(食物がうまい)+手→うまい食物を指さすという意味を導く。
しかし「器の中の肉を切る」と「食物がうまい」に必然的な関係はない。「食物がうまい」から「うまい食物を指さす」という意味に展開するのも必然性がない。
字形から意味を導くのは誤りである。意味は「言葉の意味」であって字形にあるわけではない。意味は言葉が使われる具体的文脈から判断され理解されるものである。指は次のような文脈で使われている。
①原文:今有無名之指屈而不信。
 訓読:今無名の指、屈して信(の)びざる有り。
 翻訳:今、薬指が曲がって伸びなくなった――『孟子』告子上
②原文:蝃蝀在東 莫之敢指
 訓読:蝃蝀テイトウ東に在り 敢へて之を指さすもの莫し
 翻訳:東の空に虹が出た これを指さすものはない――『詩経』鄘風・蝃蝀

①はゆびの意味、②は対象をまっすぐ指し示す(ゆびさす)の意味で使われている。①②とも古典漢語ではtier(呉音・漢音でシ)という。これを代替する視覚記号として指が考案された。
指は「旨(音・イメージ記号)+手(限定符号)」と解析する。旨はスプーンで食べ物を舌に乗せて味わう情景を設定した図形である(689「旨」を見よ)。食べ物を舌に乗せて、味の気がまっすぐに→の形に伝わっていく、あるいは↓の形に舌に浸透していく。これが食べ物を味わうということであり、ここから「うまい」の意味が実現される。味が舌に伝わる状況から「→の形や↓の形にまっすぐ」、つまり直線状のイメージが生まれる。旨のコア(深層構造)には「→の形(まっすぐ)」「直線状」のイメージがある。かくて旨に手の限定符号を添えた指は直線状をなす「ゆび」と「→の形にまっすぐにさす」の意味を暗示させることができる。