「試」

白川静『常用字解』
「形声。音符は式。式には呪具としての工を用いて悪邪を祓い清めるの意味があり、祝詞を祓い清める行為をいうようである。その方法を試みることによって祈りの効果は生まれると考えられたので、試に“もちいる、こころみる、ためす” の意味がある」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。形声も会意的に説く特徴がある。式(悪邪を祓い清める)+言→祝詞を祓い清めるという意味を導く。
式に「悪邪を祓い清める」という意味があるだろうか。試に「祝詞を祓い清める」という意味があるだろうか。そんな意味はあり得ない。「悪邪を祓う」は分かるが、「祝詞を祓い清める」とはどういうことか。それは字形からむりに引き出したものであろう。白川は図形的解釈と意味を混同している。
意味とは「言葉の意味」であって、字形に由来するものではない。言葉が使われる文脈から意味を判断し、理解するのである。試は古典で次のように使われている。
①原文:私人之子 百僚是試
 訓読:私人の子 百僚に是れ試ゐる
 翻訳:家の子郎党たちを 百官に取り立てる――『詩経』小雅・大東
②原文:其車三千 師干之試
 訓読:其の車は三千 師干を之れ試む
 翻訳:戦車は三千台 兵士と武器を試してみる――『詩経』小雅・采芑

①は有用なものを取り上げて用いる意味、②は有用かどうかを実際にためす(善し悪しをためしてみる)の意味に使われている。これを古典漢語ではtsiəg(呉音・漢音でシ)という。これを代替する視覚記号として試が考案された。
試は「式(音・イメージ記号)+言(限定符号)」と解析する。式は「道具を用いる」というイメージがある(詳しいことは743「式」を見よ)。式は「用いる」というイメージにもなる。したがって試は言葉通りかどうかを調べるためにその人を用いる状況を設定した図形である。この図形的意匠によって①②の意味をもつtsiəgを表記する。