「資」

白川静『常用字解』
「形声。音符は次。説文に“貨なり” とあって、貨材をいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく、すべて会意的に説くのが特徴である。しかし本項では次からの説明ができず字源を放棄している。
資とはどういう意味か。それは古典の文脈で知ることができる。次の用例がある。
①原文:國步滅資 天不我將
 訓読:国歩資を滅ぼし 天我を将(たす)けず
 翻訳:国の歩みは資産を失わせ 天は私を助けてくれぬ――『詩経』大雅・桑柔
②原文:善人者不善人之師、不善人者善人の資。
 訓読:善人は不善人の師、不善人は善人の資。
 翻訳:善人は不善人の先生だが、不善人は善人の資本だ――『老子』第二十七章

①は手元に置く金品(生活の基盤である財産)の意味、②は役立てるための元になるものの意味で使われている。これを古典漢語でtsier(呉音・漢音ではシ)という。これを代替する視覚記号として資が考案された。
資は「次(音・イメージ記号)+貝(限定符号)」と解析する。次が言葉の深層構造を暗示させる部分、コアイメージを表す部分である。次は「つぎつぎに並ぶ」というイメージがあり(728「次」で詳述)、これは「並びそろう」というイメージに展開する。貝は貨幣・財貨などに関係があることを示す限定符号。したがって資はいざという時のために財貨を手元に並べて取りそろえて置く情景を設定した図形である。この図形的意匠によって①の意味をもつtsierを表記する。②は①からの展開義(派生義)である。