「飼」

白川静『常用字解』
「形声。音符は司。金文には飤に作る字があり、飲食の食の意味に用いる。飼はおそらく 飤の形声の字であろう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では司からの説明ができていない(字源の放棄)。だから飤から意味を取り、「食う」「食べる」の意味とする。しかしこれは飼の意味とずれている。
飼は次の用例がある。
 原文:吾嘗饑於此、乞食於一女子、女子飼我、遂投水而死。
 訓読:吾嘗て此(ここ)に饑ゑ、食を一女子に乞ふ、女子我に飼(くら)はし、遂に水に投じて死す。
 翻訳:私はかつてここで飢えた。一人の女性に食を乞うと、彼女は私に食べ物を与えたが、とうとう川に身を投げて死んでしまった――『呉越春秋』闔閭内伝

古典漢語では人や家畜に食べ物(餌)を与えることをziəg(推定音、呉音ではジ、漢音ではシ)といった。その表記は食シ→飤シ→飼と字体が変わった。文字の作り方は、人に食べ物を与える場合に飤と書いたが、後漢以後(上記の文献は後漢の本)に飼が作られた。これは特に家畜の場合を想定している。
飼は「司(音・イメージ記号)+食(限定符号)」と解析する。司は「小さい穴」「小さい隙間から出入りする」というイメージを表す記号である(685「司」を見よ)。したがって飼は小さい穴を通して餌をやる情景を設定した図形。この図形的意匠によって家畜に餌をやる、また餌をやって家畜を養う(飼う)の意味を表している。上の文献は人に食を与える意味に使われているが、家畜なみに扱ったとも言える。