「雌」

白川静『常用字解』
「形声。音符は此。此に細小なるものの意味があり、些少のものを些という。細小なるものの意味を隹とりに及ぼして、“めす” をいう」

[考察]
此に「細小なるもの」という意味があるから、細小な鳥→めすの意味を導く。
しかし此に「細小なるもの」という意味はない。また、細小な鳥が「めす」とは限らない。
古人は獣の「おす」と「めす」を性器の形状や機能から区別して、牡ボ(おす)と牝ヒン(めす)という言葉と文字を作った。鳥の「おす」と「めす」はこれとは違う。『爾雅』(最古の辞書)では「鳥の雌雄別つべからざる者は、翼右を以て左を掩ふは雄、左もて右を掩ふは雄なり」とある。左右の翼の畳み方で区別するというのはちょっと首を傾げたくなるが、語源・字源で見ると、翼の張り方(広げ方)で雌雄を区別したと考えられる。雄が雌に対して愛のディスプレーをする鳥類があり、雄の翼の張り方には特徴がある。このような観察から雄と雌の言葉と文字が発明されたと言えそうである。
まず雄の語源・字源について。「厷コウ(音・イメージ記号)+隹(限定符号)」と解析する。厷は肱(ひじ)の原字である。「∠の形に張り広げる」というイメージを表すことができる。したがって雄は鳥が翼を大きく張り広げる情景を暗示させる。この意匠によって「おす」を表す。
「めす」は雄に対比して造形された。雄が翼を張り広げる形態から造形されたのに対して、翼を張り広げないことから、雌が作られた。これは「此シ(音・イメージ記号)+隹(限定符号)」と解析する。此は「ちぐはぐでそろわない」というイメージがある(712「紫」を見よ)。これは「∧∧∧や∨∨∨の形(ぎざぎざ・ちぐはぐ)」というイメージにもなり、また∨と∧を合わせた×の形(交わる、交差する)のイメージにも展開する。したがって雌は鳥が∧の形や×の形に翼を折り畳む情景を暗示させる。この意匠によって「めす」を表す。