「児」
正字(旧字体)は「兒」である。

白川静『常用字解』
「象形。幼児の髪形をした人の形。その髪形によって“こ、こども” の意味となる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。幼児の髪形をした人の形から「こ」の意味が生まれたという。このような説明は歴史的でもないし論理的でもない。
歴史的、論理的に兒の成立を述べてみよう。兒は古典に次の用例がある。
①原文:專氣致柔、能嬰兒乎。
 訓読:気を専らにし柔を致せば、能く嬰児たらんか。
 翻訳:気を集中させ、柔弱な体を造りあげたら、赤ちゃんになれるだろうか――『老子』第十章
②原文:既多受祉  黃髮兒齒
 訓読:既に多く祉シを受け 黄髪児歯ゲイシ
 翻訳:幸せたっぷり下されて 黄色い髪と瑞歯(みずは)が生えた――『詩経』魯頌・閟宮

①は幼いこどもの意味、②は抜け替わって出てくる細く小さい歯(老人の、歯が抜けた後に再生する歯)のことで後に齯ゲイと書かれる。古典漢語では①をngieg(呉音でニ、漢音でジ)といい、②をnger(ngei、呉音でゲ、漢音でゲイ)という。これを代替する視覚記号が兒である。
『詩経』は最古の文献の一つで、ここに兒ゲイが使われている。当然①の意味の兒ジも『詩経』の時代にすでにあったはずである。古音は①の兒もゲイに近かった。なぜ二つの意味が生まれたのか。一方は人(幼児)であり、他方は歯である。この二つを結ぶ共通点はコアイメージである。ともに「小さい」というイメージがコアにあるのである。兒の「小さい」というイメージは兒のグループを形成している。蜺ゲイ(=霓。雌の虹)、鯢ゲイ(雌の鯨)、麑ゲイ(鹿の子)、堄ゲイ(丈の低い垣)、睨ゲイ(身を低くして見回す、睥睨する)など。
兒の字源については『説文解字』で「小児の頭囟トウシン未合に象る」という説が妥当である。幼児の頭蓋骨には未縫合の部分(ひよめき。医学用語では泉門という)がある。これを図形化したのが囟シン(細・思・腦などに含まれている)であるが、兒の儿(人体)の上部も頭部(頭骨)に隙間が開いている形である。兄は頭骨が完全に閉じた形になっている(417「兄」を見よ)。兒は弟の意味ではないが、幼子を意味するngiegを表記する記号とした。