「滋」

白川静『常用字解』
「形声。音符は茲。茲を糸たばを並べた形で、ものの多いことをいう。糸たばを水につけることを滋といい、糸たばの量が水を含んで“ふえる” ことをいう」

[考察]
形声の説明原理がなく会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。茲(糸たば)+水→糸たばの量が水を含んでふえるという意味を導く。
滋にこんな意味があるだろうか。古典の用例を見てみよう。
①原文:物生而後有象、象而後有滋。
 訓読:物生じて後象有り、象ありて後滋有り。
 翻訳:物が生じから形ができ、形ができてから数が増える――『春秋左氏伝』僖公十五年
②原文:民多利器、國家滋昏。
 訓読:民利器多くして、国家滋(ますま)す昏し。
 翻訳:人民に文明の利器が多いと、国家はますます暗くなる――『老子』五十七章
③原文:苦雨數來、五穀不滋。
 訓読:苦雨数(しばし)ば来り、五穀滋(しげ)らず。
 翻訳:長雨がすばしば襲い、五穀は茂らない――『呂氏春秋』四月紀
④原文:土地滋潤。
 訓読:土地滋潤なり。
 翻訳:土地は潤って肥えている――『論衡』是応

①は数量がどんどん増える(ますます多い)の意味、②はますますの意味、③は草木がどんどん茂って殖える意味、④は水分がますます殖えてたっぷり潤う意味である。これを意味する古典漢語がtsiəg(呉音・漢音でシ)である。①~③は最初は茲、④は滋の視覚記号で再現されたが、やがて①~③も滋で書き表すようになった。
語源について古人は「子は滋なり」と説いている。子は「小さい」「小さいものが次々に増える」というイメージがある(679「子」を見よ)。王力も子・滋・慈を同源としている(『同源字典』)。藤堂明保は茲のグループ(茲・滋・慈・磁・孳など)全体が子のグループ、曽のグループなどと同源で、TSÊG・TSÊNGという音形と、「ふえる・ふやす」という基本義があるという(『漢字語源辞典』)。
siəgという語の深層構造には「小さいものがどんどん増える(殖える)」というコアイメージがあると言ってよい。このイメージがさまざまな意味領域で認められる。子の意味領域では「子が殖える」(これを孳と書く)、植物の意味領域では「草木が殖える(茂る)」(これを茲と書く)、また水の意味領域もある。これを滋で表すのである。
これらを統括する意味が「どんどん殖える、益す」ということである。語史的に見ると、滋は①②③が古く現れる。これは茲をカバーした用法である。④の意味に展開した段階で、滋の字体が新たに作られた。
滋は「茲シ(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。茲に含まれる[幺+幺]は幺(細い糸)を二つ並べて、「小さいものがもう一つ(次々と)増える」というイメージを示す記号である。これをイメージ記号とし、艸を限定符号とした茲は、草が小さい芽から次々に繁殖する情景を設定した図形。これも「小さいものが増える(殖える)」 というイメージをもつ。かくて滋は水分がますます増える状況を暗示させる。この図形的意匠によって、上記の④の意味を表している。