「璽」

白川静『常用字解』
「形声。音符は爾。“印、はんこ” 、とくに玉璽をいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく、すべて会意的に説くのが特徴である。しかし本項では爾の意味の説明がない。字源を放棄した形になっている。
爾は二人称(なんじ)に使われる語である。人称は話し手と聞き手のいる対話の関係から発想され、話し手の側、主体(自分)を一人称として、我・吾・卬という語が生まれた。これらな「交わる、交差する」というコアイメージをもつ語である(139「我」を見よ)。一方、主体(われ)に距離的に近い関係から、その相手を二人称として、爾が生まれた。爾は「近い」というコアイメージをもつ語である。邇ジ(近い)にこのイメージが生きている。
爾の字源については諸説紛々で定説はないが、はんこの形で、璽の原字と解した藤堂明保の説が妥当である。爾は上に飾り紐をつけ、下に模様(文字)を刻んだはんこを描いている。はんこは上から下に押しつけるものである。この特徴を図示すると→|の形である。ここから「二つのものがくっつく」「近づく」というイメージが捉えられる。
璽は「爾ジ(音・イメージ記号)+玉(限定符号)」と解析する。爾は「二点間の距離が近づく」「(上から下に押さえて)くっつける」というイメージを表す記号。したがって璽は上から押さえて印をつけるもの、すなわち「はんこ」を暗示させる。
璽は一般に「はんこ」の意味であるが、秦代以後は天子の印鑑に専用されるようになった。