「七」

白川静『常用字解』
「仮借。切断した骨の形。これに刀を加えると切となる。数の“ななつ” の意味に用いるのは、その音を借りる仮借の用法である」

[考察]
仮借とは何が何を借りるのか。aを意味する言葉に文字がない場合、bを意味する言葉を表すBが、aを意味する言葉と同音ならば、これの表記としてBを借りるというのが仮借である。数の「ななつ」を意味する言葉(音はシチ)を表す文字がないので、切断した骨を意味する「七」がシチという音なので、「ななつ」を意味する言葉に「七」を借りた、というのが白川説。このように考えてよいだろう。ここで疑問がある。甲骨文字では最初から「ななつ」を七で表している。それに、七に「切断した骨」あるいは「切る」という意味があるだろうか。またシチという音だろうか。これは全く不明である(七にそんな用例はない)。「ななつ」は七で表されたということだけが事実である。
以上から考えると仮借説は成り立たない。字形から意味を導こうとするから矛盾が起こるのである。言葉という視座に立脚しないと漢字は分からなくなる。
歴史的、論理的に七の成立を考えてみよう。
数の「ななつ」を意味する言葉を古典漢語ではts'iet(呉音でシチ、漢音でシツ)という。これを代替する視覚記号として七が考案された。これは甲骨文字にもあるくらい古い起源がある。
なぜ古典漢語では「ななつ」という数をts'ietと名づけたのか。これは語源の問題である。数の命名は、数の性質によるもの、数え方の特徴によるものなどさまざまである。「ななつ」をts'ietというのは数の性質に根拠がある。「ななつ」は奇数であり、割り切れない。三と五は別の原理で命名されたが、「ななつ」だけは割り切れないことから発想された。割ると余りが出る。「ななつ」を2・2・2と分けても、3・3と分けても端数が出る。ここに「割って(断ち切って)細かい半端が出る」というイメージがある。これが「ななつ」という数の性質である。断ち切って半端なものが出るというイメージを図形化したのが七である。七は後に生まれる切と関係がある。
ここから字源の話になる。甲骨文字では七ではなく「十」の形になっている(数の10ではない。10は「|」で表されている)。「十」は縦線を横線で断ち切る形であり、切った余りが出ることを示す象徴的な符号である。この意匠によって、割って端数が出る性質をもつ数を暗示させる。奇数のうち素数は割って余りが必ず出る。素数という観念はなかったが、3と5の次の素数である7はこの性質で命名されたわけである。