「執」

白川静『常用字解』
「会意。幸と丮とを組み合わせた形。幸の古い字形は両手にはめる手枷の形。丮は両手をさし出している形で、両手に刑具の手枷をはめている形が執で、罪人をとらえるの意味となる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。幸(手枷)+丮(両手を差し出す)→罪人を捕まえるという意味を導く。図形的解釈をストレートに意味としている。
意味は「言葉の意味」であって字形から出るのではない。意味は文脈における言葉の使い方にある。執は古典で次の用例がある。
①原文:鋪敦淮濆 仍執醜虜
 訓読:淮濆ワイフンに鋪敦し 仍(かさ)ねて醜虜を執(とら)ふ
 翻訳:淮のみぎわに集結し たくさんの虜を捕まえた――『詩経』大雅・常武
②原文:執子之手 與子偕老
 訓読:子シの手を執りて 子と偕(とも)に老いんと
 翻訳:お前と手を取り合って 共白髪までと誓いを立てた――『詩経』邶風・撃鼓

①は捕まえる(捕らえる)の意味、②は手でつかむ(手にとる)の意味で使われている。これを古典漢語ではtiəp(呉音・漢音でシフ)という。これを代替する視覚記号として執が考案された。
執は「幸+丮」と分析する。幸は手錠の形である(547「幸」を見よ)。丮は両手を差し出している人の形で、両手の動作と関係があることを示す限定符号に使われる。孰(塾・熟)や藝に含まれる「丸」と同じ。筑や恐では「凡」の形に変わる。執は犯人に手錠をかける情景を設定した図形である。この図形的意匠によって①の意味をもつtiəpを表記する。捕まえる意味だが、捕まえる対象は罪人とは限らない。