「漆」

白川静『常用字解』
「形声。音符は桼しつ。桼は樹皮を傷つけて漆の液の流れる形で、漆のもとの字である。液状のものであるから、漆の字とし、“うるし” をいう」

[考察]
字源説としてはほぼ妥当であるが、木の名に触れていない。字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法であるが、これには異論がある。意味は字形にあるのではなく、言葉に、言葉が使われる文脈に、あるからである。
漆は語史が非常に古く、次の用例がある。
 原文:山有漆 隰有栗
 訓読:山に漆有り 隰(さわ)に栗有り
 翻訳:山にあるのはウルシの木 沢にあるのはクリの木――『詩経』唐風・山有枢
漆はウルシという木の名である。これを古典漢語ではts'iet(呉音でシチ、漢音でシツ)という。
漆は「桼シツ(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。桼は木に切れ目を入れて、点々と汁を滴らす状況を図にしたもので、これ自体がウルシを採る情景である。樹液を採る木であることを明示するため水の限定符号を添えて漆とした。ウルシから採った樹液も漆という。桼は木の名、漆は樹液の名と区別することはない。どちらも漆という。
ts'iet(漆)という語は「切れ目を入れる」というのがコアイメージである。この語は用途や工程に基づいた命名である。「切れ目」は「折れ目」でもある。「ひざ」は足の折れ目のところだから膝シツという。
字源だけでなく語源を究明して初めて漢字の成り立ちは完結する。