「写」
正字(旧字体)は「寫」である。

白川静『常用字解』
「会意。宀は祖先を祭る廟の屋根の形で、廟屋。舄は儀礼のろきにはく飾りのあるぬいぐつの形である。寫は、廟の中では儀礼用の舄にはきかえるので、前のくつをはきかえ写のぞくの意味となった。それでまた移すの意味となるが、ものを移し変えることから、“うつしとる、うつす” に用いる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。「宀(廟屋)+舄(儀礼用の靴)」というきわめて単純で舌足らず(情報不足)な図形から、廟の中で儀礼用の靴に履き替える→前の靴を履き替えのぞくという意味を導く。
「はきかえ写く」とはどういうことか。「はきかえ写く」からなぜ「移す」の意味になるのか。「物を移し変える」からなぜ「写し取る」の意味になるのか。意味の展開に必然性・合理性がない。
白川漢字学説には形声の説明原理がなく、すべて会意的に説く特徴がある。ここには言葉という視座が欠けている。だから字形から意味を求めるほかはないが、図形的解釈をストレートに意味とするため、図形的解釈と意味が混同されている。寫に「前の靴をはきかえ写く」という意味はあり得ない。
意味は「言葉の意味」であって字形から出るのではない。言葉が使われる文脈から出るものである。寫は古典で次の用例がある。
①原文:駕言出遊 以寫我憂
 訓読:駕して言(ここ)に出で遊び 以て我が憂ひを写(のぞ)かん
 翻訳:車に乗って野に遊び 心のうさを晴らしたい――『詩経』邶風・泉水
②原文:竊簡而寫法律。
 訓読:簡を窃みて法律を写す。
 翻訳:竹簡を盗んで法律[の条文]を写し取った――『淮南子』説山訓

①は別の場所に移す意味、②は原物や原本の文字を別の所に書きうつす意味で使われている。これを古典漢語ではsiăg(呉音・漢音でシャ)という。これを代替する視覚記号として寫が考案された。
寫は「舄セキ(音・イメージ記号)+宀(限定符号)」と解析する。舄は『説文解字』に「舄は鵲なり」とある通りカササギを描いた図形である。しかし実体に重点があるのではなく形態や生態に重点がある。カササギはあちこちに移動して人に幸運を運ぶ鳥と信じられた。だから舄は「ある場所から別の場所に移って行く」というイメージを表す記号になる。宀は家・建物に関わることを示す限定符号。限定符号は図形的意匠を作るための場面設定の働きもある。寫は家の中の物を別の場所に移す場面を設定した図形である。この図形的意匠によって、Aにある物をBという別の場所に移すことを意味するsiăgを表記する。
物をAからBに空間的に移動させることが①の意味だが、Aにある物を文字などに替えてBに移動させる、つまり書いて移すという意味に展開したのが②の意味である。