「卸」

白川静『常用字解』
「会意。Aと卩とを組み合わせた形。Aの部分は幺(糸たば)、あるいは午(杵の形)で、呪器であった。卩は跪く人の形。卸は幺や午を跪いて拝む形で、これを拝んで神を降ろし迎え、邪霊を禦ふせぎ御おさめる儀礼をいう。卸は御のもとの字であった。のち卸は車馬から物を解きおろすことをいう」
A=[卸-卩](卸の左側の部分)

[考察]
字形の解剖に疑問がある。Aを幺(糸たば)とするがそんな形には見えない。またAを午とするが、午の下の止は何かが分からない。字形の解剖がすでに疑わしいから、意味の解釈も疑わしい。幺や午を拝んで神を降ろすとはどういうことか。これが邪霊を禦ぐ儀礼の意味になるだろうか。神を降ろすことから、「車馬から物を下ろす」の意味になるだろうか。
卸が御の原字というのもおかしい。卸はシャの音、御はギョ・ゴの音であって、別語である。また御は語史が古いが(『詩経』などに出る)、卸は漢代以後の文献に初めて出る。次の用例がある。
 原文:銜卸道傍。
 訓読:銜(ふく)ませて道傍に卸す。
 翻訳:馬にはみを含ませたまま、道端で荷を下ろす――『易林』巻一
卸は馬から鞍を解いて下ろす、また、車や馬から積んだもの(荷物)を下ろすという意味で使われている。これを古典漢語ではsiăg(呉音・漢音でシャ)といい、卸で表記した。
卸は御の彳を省いた字である。音は無関係で、意味を暗示させるだけである。御は馬または車に乗って操る意味がある(346「御」を見よ)。彳(進行を示す限定符号)を省いて、御とは反対に、車を止めて馬を解放してやることを暗示させた。