「煮」

白川静『常用字解』
「形声。音符は者。庶が“にる、ゆでる” の意味のもとの字である。者は邪霊を祓うお札を埋めたお土居であるから、火を加えて煮炊きするものではなく、煮は料理とは関係のない字である」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴があるが、本項では会意的に説明できず、字源を放棄している。
煮は古典に次の用例がある。
 原文:煮水爲鹽。
 訓読:水を煮て塩を為(つく)る。
 翻訳:海水を煮て塩を造る――『管子』軽重甲
煮は熱を加えて物をにる意味で使われている。これを古典漢語ではtiag(呉音・漢音でショ。シャは慣用音)という。これを代替する視覚記号として煮が考案された。
煮は「者(音・イメージ記号)+火(限定符号)」と解析する。者は器(こんろの類)の上に薪を集めて燃やす情景を設定した図形である(759「者」を見よ)。これは物を煮炊きする日常生活の情景である。ここからtiăg(者)という言葉が発想され、同源グループ(者・煮・暑・都など)が形成された。これらの語群には「(多くのものを)一所に集める」「くっつける」という共通のコアイメージがある。者はまた「熱を一所に集中させる」というイメージも表すことができる。かくて煮は火を燃やして熱を集中させる状況を暗示させる。この意匠によって「にる」を意味するtiagを表記する。