「借」

白川静『常用字解』
「形声。音符は昔。説文に“假るなり” とあり、かるとはかりもの、一時的にの意味である。“かりる、かる、かす”の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。しかし本項では昔からの説明ができないので、字源を放棄している。
「かりる」と「かす」という行為は物に視点を置くと、A→Bの方向かA←Bの方向かの違いで、同じ行為の両面と言える。日本語の「かる」と「かす」は同根とされる。古典漢語では借と貸があるが、ともに「かる」も「かす」も表した。後に「かりる」には借、「かす」には貸と使い分けるようになった。古典に次の用例がある。
①原文:借人之力以救其死。
 訓読:人の力借りて以て其の死を救ふ。
 翻訳:他人の力を借りて、自分の命を助ける――『春秋左氏伝』襄公十九年
②原文:有馬者借人乘之。
 訓読:馬を有する者は人の借(か)して之を乗らしむ。
 翻訳:馬の所有者は人の貸して馬に乗せる――『論語』衛霊公

①はかりる意味、②は貸す意味に使われている。これを古典漢語ではtsiak(呉音でシャク、漢音でセキ)という。これを代替する視覚記号として借が考案された。
借は「昔セキ(音・イメージ記号)+人(限定符号)」と解析する。昔は「上に重ねる」「重ね加える」というイメージがある(「昔」で詳述する)。借は足りない所に物を重ね加える情景を設定した図形。この図形的意匠によって、A(物の所有者)とB(物が足りない人)の間で、一時的にA⇄Bの形に物が移動する状況を暗示させる。A→Bの方向が「かす」、A←Bの方向が「かりる」である。