「釈」
正字(旧字体)は「釋」である。

白川静『常用字解』
「会意。釆は獣の爪の形。睪は獣の屍体の形で、罒は目、幸が肢体(手足)の形である。獣の爪で屍体を引き裂き、ばらばらにすることを釈という。のち釈はすべて固まったもの、もつれたものを“とく、ときほぐす”の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学説には言葉という視座がない。だから形声の説明原理がなく、会意的に字形から意味を導くのが特徴である。釆(獣の爪)+睪(獣の屍体)→獣の爪で屍体を引き裂きばらばらにするという意味を導く。
図形的解釈をそのまま意味としている。図形的解釈と意味を混同するも白川漢字学説の特徴である。
「釆(獣の爪)」と「睪(獣の屍体)」という単純な組み合わせからなぜ「ばらばらにする」「ときほぐす」という意味が出てくるのか。字形の見方にも問題がある。睪の分析の疑問については66「駅」で述べた。
形声の説明原理とは言葉の深層構造に掘り下げ、語源的に成り立ちを究明する方法である。それにはまず言葉の使われた文脈から意味を確かめる必要がある。釋は古典で次の用例がある。
①原文:春王正月、公在楚、釋不朝正于廟也。
 訓読:春王の正月、公楚に在りとは、廟に朝正せざるを釈するなり。
 翻訳:[春秋に]“春王の正月、公は楚に在った”とあるのは、廟に朝正の儀をしなかったことを釈したものだ――『春秋左氏伝』襄公二十九年
②原文:渙兮若冰之將釋。
 訓読:渙として将に氷の釈(と)けんとするが若(ごと)し。
 翻訳:ぱらりと氷が溶けるかのようだ――『老子』第十五章
③原文:釋箕子之囚。
 訓読:箕子の囚を釈く。
 翻訳:箕子[人名]の監禁を解いた――『荀子』大略

①は込み入った文章などを解きほぐして分かりやすく述べる(解き明かす)の意味、②は凝り固まったものがばらばらになる(溶ける、解ける)の意味、③は拘束していたものを解き放つ意味で使われている。これを古典漢語ではthiak(呉音でシャク、漢音でセキ)という。これを代替する視覚記号として釋が考案された。
釋は「睪エキ(音・イメージ記号)+釆(イメージ補助記号)」と解析する。睪は「罒+幸」と分析する。罒は目と同じ。幸は手錠の形で、犯人や容疑者の象徴とする。犯人や容疑者を目視する場面が想定されている。犯人を特定するために容疑者を面通しする場面を設定したのが睪である(66「駅」を見よ)。面通しする場面では何人かの容疑者をのぞき見して違うかどうかを判定する。このような情景を図示するとA-B-C-というぐあいに次々につながっていく。これは数珠つなぎのイメージであるが、連鎖ではなく「間を置いて点々と並ぶ」「点々と分かれる」というイメージにも展開する。釆は握り拳を開いて米粒をばらまく形である(213「巻」を見よ。後に「番」で詳述する)。したがって釋はばらばらになったものを一つ一つ分けて並べる情景を設定した図形。この図形的意匠によって、無秩序な状態が解きほぐされてすっきりした形になること、あるいは、こんがらがったものや固まったものをすっきりと解きほぐすことを暗示させる。これが①~③を統括する意味である。