「守」

白川静『常用字解』
「会意。宀は先祖の霊を祭る廟の屋根の形で、廟などの重要な建物をいう。金文には、寸の部分が干(盾)を手(又)に持つ字形があり、重要な建物を“まもる” ことをいう」

[考察]
宀を廟など重要な建物の意味とするが、そんな意味はあり得ない。宀は単に家や屋根の形であり、家や建物に関わる限定符号としての役割しかない。だから守に「重要な建物を守る」という意味もあり得ない。
白川漢字学説は字形の解釈をそのまま意味とし、図形的解釈と意味を混同する傾向がある。これは字形から意味を導く方法の限界である。
白川漢字学説には言葉という視点が欠けている。意味は言葉に属する概念であって、字形に求めるべきではない。言葉の使用される文脈に求めるべきである。
守は古典に次のような文脈で使われている。
 原文:不憗遺一老 俾守我王
 訓読:憗(なまじひ)に一老を遺(のこ)して 我が王を守ら俾(し)めず
 翻訳:一人の旧臣を後に残して 我らが王様を守らせようともしない――『詩経』大雅・十月之交

守は危険がないようにまもる(大切に身をまもる)の意味で使われている。これを古典漢語ではthiog(呉音でシュ・ス、漢音でシウ)という。これを代替する視覚記号として守が考案された。
守は「寸(手)+宀(屋根)」というきわめて舌足らず(情報不足)な図形である。単純な図形は何とでも解釈できる。恣意的な解釈に歯止めをかけるのは語源である。thiogという語は手(thiog)と同源である。手は指で囲って物をつかむという手の機能から発想された語である。だから「中のものを外枠で囲む」「周囲をぐるりと取り巻く」というコアイメージがある(779「手」を見よ)。
語源を考慮すると守の造形法が見えてくる。ただし寸は手と同字ではない。寸は肘に含まれており、むしろ肘の省体と見てよい。肘の機能はぐるっと曲げて物を締めつけて引き寄せることにある。したがって「寸(肘の略体。イメージ記号)+宀(限定符号)」を合わせた守は、家という枠の中に物を入れてしっかりと保つ情景を設定した図形と解釈できる。この図形的意匠によって上記の意味をもつthiogを表記するのである。