「酒」

白川静『常用字解』
「形声。音符は酉ゆう。酉は酒樽の形で、酒のもとの字である。“さけ”をいう」

[考察]
甲骨文字でも「さけ」を表す字は酒であった。酉は十二支の第十位に用いられた。ただし酉を酒と同じに用いた例もあるから、酉と酒は混用されたらしい。古典漢語では「さけ」はtsiog(呉音でシュ、漢音でシウ)、十二支の酉はd(y)iog(呉音でユ、漢音でイウ)といい、別語になっている。
酒は「酉(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。酉は酒壺を描いた図形である。容器でもって内容物に替える転義のレトリックは換喩であるが、酉は別の用法(十二支の名)に専用されたので、酉に水の限定符号をつけた酒で「さけ」の意味をもつtsiogの表記とした。
これは字源の説明だが、なぜ「さけ」をtsiogというかは語源の問題である。『釈名』(漢代の語源辞典)では「酒は酉なり。また踧(縮める)なり」と語源を説く。酉ユウと酋シュウは同源の語で、酋は酒を搾る杜氏の意味である。また酒を搾ることを縮といった。縮は酒袋を縮めて酒を搾る(したむ)という意味。このように酋・縮には「搾る」「縮める」というイメージがある。tsiog(酒)はこれらの語と同源で、原料を搾るという製法・工程による命名と考えられる。