「種」

白川静『常用字解』
「形声。音符は重。種は穀物の“たね” をいう」

[考察]
白川漢字学説は形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では重からの説明ができず、字源を放棄している。
形声の説明原理とは言葉の深層構造に掘り下げ、コアイメージを捉えて成り立ちを考える方法である。言葉という視点に立ち、語源を解き明かして意味を考えるのである。 ただし意味は古典における具体的文脈から知ることができる。種は次のような文脈で使われている。
①原文:茀厥豐草 種之黃茂
 訓読:厥(そ)の豊草を茀(はら)ひ 之(こ)の黄茂を種(う)う
 翻訳:茂った草を取り除き 良い穀物を植えつけた――『詩経』大雅・生民
②原文:五穀者種之美者也。
 訓読:五穀なる者は種の美なる者なり。
 翻訳:五穀は種子の旨い食べ物である――『孟子』告子上

①は作物を植える意味、②は植物のたねの意味で使われている。これを古典漢語でtiung(呉音でシュ、漢音でショウ)という。これを代替する視覚記号として種が考案された。
種は「重(音・イメージ記号)+禾(限定符号)」と解析する。重は「上から重みをかけて突き通す」というイメージがある(824「重」を見よ)。禾は稲や作物と関係があることを示す限定符号。したがって種は作物のたねや苗を地中へ突き通すようにして植えつける情景を設定した図形である。この図形的意匠によって①②の意味をもつtiungを表記した。