「趣」

白川静『常用字解』
「形声。音符は取。趣と走は古く通用の字であったから、趣には早く赴く、“おもむく、おもむき” の意味が有る」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴があるが、本項では会意的にも説明できず、字源を放棄している。
形声の説明原理は言葉の視点に立って語源的に説く方法である。趣は古典に次の用例がある。
①原文:濟濟辟王 左右趣之
 訓読:済済たる辟王 左右之に趣(おもむ)く
 翻訳:威儀を正す君主のもとに 家来たちは駆けつける――『詩経』大雅・棫樸
②原文:商趣利。
 訓読:商は利に趣く。
 翻訳:商人は利のある所に向かう――『列子』力命

①は急いで目的地に向かって行く意味、②は心がある目的に向かう意味に使われている。これを古典漢語ではts'iŭg(呉音でス、漢音でシュ)という。これを代替する視覚記号として趣が考案された。
趣は「取(音・イメージ記号)+走(限定符号)」と解析する。取は手で物をつかむことである。その際には指を内側に折り曲げるから「内側に引き締める」「縮める」というイメージがある(783「取」を見よ)。走は足の動作(歩行)と関係があることを示す限定符号。したがって趣は歩幅を縮めてせかせかと歩く情景を設定した図形。この図形的意匠によって①の意味をもつts'iŭgを表記する。
①から②に転義する。また、心の向く所(心が狙いとする所)の意味(趣旨の趣)、さらに、心を向かわせるようなおもしろい事柄の意味に展開する。これが「おもむき」、趣味の趣の意味である。