「舟」

白川静『常用字解』
「象形。舟の形。舟は古くは大木を刳りぬいて作る刳り舟・丸木舟で、のちの板をはり合わせた舟ではなかった。舟の形はもとは食物や水などを入れる盤(さら、たらい)と同形である」

[考察]
舟はもとは盤(さら)の形だというが、「さら」と「ふね」の意味上の関係が述べられていない。古代の祭器の名に「舟」という語があったらしいが、これは舟を象ったものであろう。舟は「ふね」が最初の意味と考えてよい。
字源は「舟はふねの形」で簡単だが、語源を究明しないと漢字の説明は半端である。なぜ「ふね」を古典漢語でtiog(呉音でス、漢音でシウ)というのか。段玉裁は「舟の言は周旋なり」(『説文解字注』)、朱駿声は「舟は周なり」(『説文通訓定声』)と述べている。tiog(舟)という語は周(めぐる)と同源だというのである。これはなぜか。「ふね」の構造に着目すればその理由が分かる。「ふね」は木や板を周囲にめぐらし、中を外枠で囲った形状をしている。ここに「周りを枠で囲う」「外枠をめぐらす」というイメージがある。周だけではなく、州・囚・収・守などもこれと共通のコアイメージがある。これらの同源グループからtiog(舟)という語が生まれたのである。
舟は「ふね」の意味のほかに、「周りを取り巻く」という意味もある。
 原文:何以舟之 維玉及瑤
 訓読:何を以て之に舟(めぐ)らさん 維(こ)れ玉及び瑶
 翻訳:[腰に帯びる佩に]何を巻きましょう 美しい玉に宝石――『詩経』大雅・公劉
この舟は取り巻く(めぐらす) という意味である。tiog(舟)という言葉のコアイメージが動詞として実現された。この事実から逆に「ふね」をなぜtiogというのかが明らかになった。