「秀」

白川静『常用字解』
「象形。禾穀の穂の部分が垂れて花が咲いている形。花咲くときは最も美しく、秀でた状態のときであり、“ひいでる” の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学説は字形から意味を引き出すことを方法とする。花が咲いた形→最も美しい状態→ひいでるという意味を導く。
白川学説には言葉という視座がない。意味の展開は言葉という視座から導く必要がある。
日本語の「ひいでる」はホ(穂)+イヅ(出)が語源で、「高く出ていて目立つもの」が原義という(『岩波古語辞典』)。また英語のexcelはラテン語のexcellere、ex(外に)+cellere(高く上がる)、つまり外に(上に)高く上がることに由来するという(『スタンダード英語語源辞典』)。日本語も英語も「高く出る、上に上がる」というイメージが共通である。才能が優れていることをこのようなイメージで捉えることは言語の発想に普遍性があるということの証しではあるまいか。
秀もこれと全く揆を一にする。秀の用例を古典に見よう。
①原文:實發實秀 實堅實好
 訓読:実(まこと)に発(ひら)き実に秀で 実に堅く実に好し
 翻訳:[穀物は]花が開き穂が出て 実が堅くみごとな形――『詩経』大雅・生民
②原文:選士之秀者而升之學。
 訓読:士の秀でたる者を選びて之を学に升(のぼ)す。
 翻訳:男子の優秀な者を選んで大学に上がらせる――『礼記』王制

①は作物が穂を出す意味、②は他よりもひときわ上に出る(すぐれる)の意味である。これを古典漢語ではsiog(呉音でシュ、漢音でシウ)という。これを代替する視覚記号として秀が考案された。
秀は「禾+乃」に分析するのが普通である。乃は曲がって垂れ下がる様子を示す象徴的符号である。秀は「乃(イメージ記号)+禾(限定符号)」と解析できる。極めて舌足らず(情報不足)な図形であるが、上の①の「穂を出す」という意味を暗示させようとするための工夫と見れば、作物の穂が出て垂れ下がる状況を設定した図形と解釈できる。
図形から意味を引き出すと「穂が垂れ下がる」になりかねないが、意味は上記の通りであるから、「穂が上に出る」に視点を置く。穂は本体から上に抜け出たものであるから、「抜け出る」というイメージがある。これを言葉としてはsiogという。「(上に、高く)抜け出る」というコアイメージから、抜きん出る(すぐれる)という意味(②)に転じるのは容易に分かる。