「周」

白川静『常用字解』
「会意。方形の盾と口とを組み合わせた形。周は𠣘と音が同じであるために早くから通用したから、周は“あまねし、めぐる、まわり”の意味にも用いる」

[考察]
白川は周の本義を国名としている。周は周族の紋章の形だという。民族の紋章とは何であろうか。トーテムのようなものか。肯定も否定もできない説である。しかし固有名詞とするのは言葉の探求を放棄することになる。
古典の用例を見てみよう。
①原文:自西徂東 周爰執事
 訓読:西自(よ)り東に徂(ゆ)き 周(あまね)く爰(ここ)に事を執る
 翻訳:西から東に至るまで みんな全員が仕事に励む――『詩経』大雅・緜
②原文:水周兮堂下
 訓読:水は堂下を周る
 翻訳:川は堂の下をぐるりとめぐる――『楚辞』九歌・湘君

①は全体に欠け目なく行き渡る(満遍なく行き渡る、あまねし、あまねく)の意味、②はまわりをぐるりと回る(めぐる)の意味で使われている。これを古典漢語ではtiog(呉音でシュ・ス、漢音でシウ)という。これを代替する視覚記号として考案されたのが周である。
①は「あまねし」、②は「めぐる」の意味だが、この二つはどんな関係があるのか。tiog(周)は舟・州・囚・収・守などと同源である。これらの語は「まわりを枠で囲む」「外枠をめぐらす」「ぐるりと取り巻く」というコアイメージがある。中の物を外枠でぐるりと取り巻くと、枠の全体を囲むことになるから、「満遍なく行き渡る」というイメージに展開する。イメージの展開は逆もありうる。①の「満遍なく行き渡る」から②の「まわりを取り巻く(回る、めぐる)へ転義する。以上は語源の説明である。
次に字源から見てみよう。周を分析すると「B+口」になる。Bは囗の中に米印を入れた形(𡇒に近い)。これは實にも含まれている(754「実」を見よ)。郭沫若が「田中に種植有る形」としたのが妥当である。つまり田んぼに種や苗がびっしりと播かれている(植えてある)情景である。この図形で「びっしり密着する」「びっしり行き渡る」というイメージを表すことができる。周は「B(イメージ記号)+口(場所を示すイメージ補助記号)」と解析する。囲いの中の全体にびっしりと行き渡る状況を暗示させるのが周である。この図形的意匠によって①の意味をもつtiogを表記する。