「拾」

白川静『常用字解』
「形声。音符は合。合は器と蓋とを合わせる形で、そのようにとりそろえることを拾という。“ひろいとる、ひろう、ひろいあつめる、あつめる”の意味に用いる」

[考察]
形声も会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。合(器と蓋を合わせる)+手→「ひろいとる」という意味を導く。
「器+蓋」の形から「そのように(器と蓋を合わせるように)とりそろえる」→「ひろいとる」という意味になるだろうか。「合」の項では「器と蓋が相合う」の意味としている。合は二つのものがぴったり合うことであろう。これから「拾い取る」という意味になるだろうか。
字形から意味を求めるのは間違った方法である。意味は言葉の使われている文脈から求めるべきである。拾は次の用例がある。
 原文:道不拾遺、民不妄取。
 訓読:道に遺(お)ちたるを拾はず、民は妄りに取らず。
 翻訳:[世の中がよく治まり]道端で落とし物を拾わないし、民はむやみに物を取らない――『戦国策』秦策
拾はひろう意味で使われている。これを古典漢語ではdhiәp(呉音でジフ、漢音でシフ)という。これを代替する視覚記号として拾が考案された。
dhiәp(拾)は十と同源の語で、「合わせて一つにまとめる」というコアイメージがある。放置されたものや散在しているものを集めて、一つに合わせまとめて、手に取ることがdhiәpの意味である。
これを図形として表現したのが拾である。「合(イメージ記号)+手(限定符号)」と解析する。合は「(二つのものが)ぴったり合う」というイメージがある(586「合」を見よ)。拾はいくつかの物を合わせて一つにまとめて取る情景を暗示させる。この図形的意匠によって「ひろう」を意味するdhiәpを表記する。
漢字は「字形→意味」の方向ではなく、「意味→字形」の方向に見るべきである。