「秋」

白川静『常用字解』
「会意。もとの字形は𥤛に作り、禾と龜と火とを組み合わせた形。禾はいね、穀物で、龜の部分はいなごなどの虫の形。秋になるといなごなどが大発生して穀物を食い、被害をうけるので、いなごなどの虫を火で焼き殺し、豊作を祈る儀礼をしたのであろう。その儀礼を示す字が𥤛で、“みのり”の意味となる。のち虫の形の龜を省略して火だけを残し、秋となった。この儀礼は秋の虫害に関係があるので、季節の“あき”の意味に用いられるようになったのであろう」


[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の特徴である。禾(穀物)+龜(いなご)+火→いなごを焼き殺し豊作を祈る儀礼という意味を導く。
龜をいなごなどの虫と見るのが奇抜である。龜はどう見ても「かめ」の意味しかない。また豊作を祈る儀礼から「みのり」の意味になったという。豊作を祈るのは時間的に見て秋よりも以前であろう。穀物がみのる秋に豊作の儀礼を行うというのは理屈に合わない。またその儀礼が虫害と関係があるから「あき」の意味になったというのも変である。穀物のみのるのは秋だから、みのりと秋は結びつく。虫害とは関係がない。ちなみにドイツ語のHerbstには「秋」と「収穫」の二つの意味がある。
古人は「秋は粛(引き締まる)なり」「秋は緧シュウ(引き締める)なり」と語源を捉えている。現代の季節感とは違うようだが、秋を収斂(引き締める)や粛殺(草木をしぼませ枯らす)のイメージで捉えている。寒気がやってきて植物を枯らし、人体を引き締める季節という感覚である。「あき」を古典漢語でts'iog(呉音でシュ、漢音でシウ)という。この語は粛や縮と同源で、「引き締まる」「縮まる」というコアイメージがある。以上は語源の説明である。
秋の字体は「禾+火」(篆文)と𥤛(籀文)がある。𤒅(龜+灬)は焦(焼いて焦がす)と同音の字である。篆文は「火(イメージ記号)+禾(限定符号)」、籀文は「𤒅ショウ(音・イメージ記号)+禾(限定符号)」と解析する。いずれも、収穫が終わって作物の藁を乾かしたり焼いたりする情景を設定した図形と解釈できる。「あき」の風物の一こまを図形にしたものである。この図形的意匠によって、「あき」を意味するts'iogを表記する。