「愁」

白川静『常用字解』
「形声。音符は秋。説文に“憂ふるなり”とあり、憂愁と合わせて用いる。秋を音符とするのは、秋のものさびしい季節感を含みものであろう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。秋のものさびしい季節感から「うれえる」の意味が出たとするらしい。秋をストレートに「あき」の意味に取っている。
形声の説明原理とは何か。言葉の深層構造に掘り下げて、コアイメージを捉えて、意味を説明する方法である。 ただし意味は古典の文脈から知ることができる。その意味の深層構造を究明するのが形声の説明法である。
愁は古典に次の用例がある。
 原文:哀而不愁。
 訓読:哀みて愁へず。
 翻訳:[その音楽は]悲しいけれどもわびしくはない――『春秋左氏伝』襄公二十九年
愁は心配で心細くなる、心細くてわびしい(うれえる)の意味で使われている。これを古典漢語でdzïog(呉音でジュ、漢音でシウ)という。これを代替する視覚記号として愁が考案された。
愁は「秋(音・イメージ記号)+心(限定符号)」と解析する。秋は「引き締まる」「縮まる」というイメージがある(806「秋」を見よ)。愁は心配で心が縮まる心理状況を暗示させる。愁と似た心理現象を表す焦(=憔。心を悩ます、焦燥)や戚(=慼。うれえる)も「縮まる」というコアイメージがある。ただしおなじ「うれえる」でも憂はコアイメージの異なる別語である。
秋と愁は関係のある語(同語源)であるが、「あき」という表層レベルではなく、深層レベルでつながっている。深層構造に掘り下げて初めて両者の関係が分かる。