「酬」

白川静『常用字解』
「形声。音符は州。説文には字を醻に作り、音符 は壽(寿)。わが国の宴会のように杯をやりとりするのであろう。杯を返すことを酬という」

[考察]
形声の説明原理がなくすべて会意的に説くのが白川漢字学説の特徴であるが、本項で州からの説明ができていない。字源の体をなしていない。
酬は古典に次の用例がある。
①原文:主人酬賓。
 訓読:主人、賓に酬(むく)ゆ。
 翻訳:主人が客に返杯する――『儀礼』士冠礼
②原文:吾無以酬之。
 訓読:吾以て之に酬いる無し。
 翻訳:私は彼にお礼するものがない――『春秋左氏伝』昭公二十七年

①は主人が客に返杯する意味、②は受けた恩義に礼物で返す意味に使われている。これを古典漢語でdhiog(呉音でジュ、漢音でシウ)という。これを代替する視覚記号として酬が考案された。
酬は「州(音・イメージ記号)+酉(限定符号)」と解析する。州は「周りを枠で囲む」「ぐるりと取り巻く」というイメージがある(800「州」を見よ)。これは「ぐるりと回る」というイメージに展開する。酉は酒と関係があることを示す限定符号である。したがって酬は主人が客の席を回って酒を注ぐ情景を設定した図形。この図形的意匠によって、上の①の意味をもつdhiogを表記する。
相手から受けたことにお返しするのが「むくいる」ということである。返杯することから、相手のしたことに対して財物などでお返しするという意味(②)が派生する。ただし同じ「むくいる」でも報復の報とは違う。