「従」
正字(旧字体)は「從」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は从じゅう。从は左向きの人が前後に並ぶ形で、從のもとの字である。辵(辶) は小径を歩くの意味である。前の人に後ろの人が従って歩くことを従という」

[考察]
ほぼ妥当な字源説である。しかし字形から意味を引き出すのは間違いである。意味は「言葉の意味」であって、字形に属するものではなく、言葉に属する概念である。意味は言葉の使われる文脈から判断し理解するものである。從は次のような文脈で使われている。
①原文:從子于沃
 訓読:子シに沃に従はん
 翻訳:あなたについて沃[地名]まで参ります――『詩経』唐風・揚之水
②原文:蓺麻如之何 衡從其畝
 訓読:麻を蓺(う)うるに之を如何せん 其の畝を衡従コウショウにす
 翻訳:麻を植えるにはどうすべき 縦横にうねをまず作る――『詩経』斉風・南山

①は後について行く意味、②はたての意味で使われている。古典漢語で①をdziung(呉音でジュ・ジュウ、漢音で ショウ)、②をtsiung(呉音でシュ、漢音でショウ)という。これを代替する視覚記号として從が考案された。
從は「从(音・イメージ記号)+辵(限定符号)」と解析する。从は人を二つ並べた形。同じ方向に二人が並ぶ情景を設定している。竝も二人が並ぶ姿であるが、竝は静止画像、从は動画風に読む。漢字は静止画像しか表せないが、時に動画仕立てである場合もある。Aの後にBがついて行くという動画である。辵は歩行・進行と関係があることを示す限定符号。辵を添えると完全に動画となる。この図形的意匠によって①の意味をもつdziungを表記する。
AとBの関係を図示するとA←B(またはA→B)の形である。視点を変えるとA―Bは縦の列になる。だから「縦にまっすぐ延びていく」というのが從のコアイメージである。ここから「たて」の意味が実現される。これが②である。ちなみに合従連衡は縦に連合する同盟と横に連合する同盟の意味。