「叔」

白川静『常用字解』
「会意。尗は戚まさかりの頭部で、下に白く光を放っている形である。又は手の形であるから、尗を手で持つ形が叔で、戚はもと聖器として用いられたらしい。叔には“しろい”の意味がある。戚の刃の光は白く、ものを清める力があるとされ、叔には“よい”という意味がある」

[考察]
「寂」では尗シュクを音符としているから本項も形声とすべきであろう。白川漢字学説には形声の説明原理がなく、すべて会意に説く特徴がある。尗(まさかり)+又(手)→まさかりを手で持つ→しろい・よいという意味を導く。
しかしまさかりを手に持つ形から、「しろい」と「よい」の意味が出るだろうか。まさかりは白く光るからというが、白く光るまさかりとはどういうものか。またまさかりは物を清める力があるから「よい」の意味になるというが、意味の導き方に必然性・合理性があるとは言い難い。
意味とは「言葉の意味」であって、具体的な文脈で使われる意味である。叔には「白い」も「良い」の意味もない。叔は古典で次の用例がある。
①原文:九月叔苴
 訓読:九月苴ショを叔(ひろ)ふ
 翻訳:九月にはアサの実を拾う
②原文:叔于田 巷無居人
 訓読:叔田(かり)に于(ゆ)けば 巷に居人無し
 翻訳:叔さんが狩りに行けば 村の中に人がいなくなる――『詩経』鄭風・叔于田

①は拾う意味、②は兄弟のうち小さいほうの弟の意味だが、ここでは愛称である。古典漢語でこれをthiok(呉音でスク、漢音でシュク)という。これを代替する視覚記号として叔が考案された。
叔は「尗シュク(音・イメージ記号)+又(限定符号)」と解析する。尗は蔓を出したマメを描いた図形である。菽(ダイズ)の原字と言ってもよい。尗は「小さい」というイメージがある。このイメージは「小さく(細く)引き締まる」というイメージにも転化する。又は手の動作に関わる限定符号。したがって叔は手の指を引き締めて物を取る情景を暗示させる。この図形的意匠によって①の意味をもつthiokを表記する。
意味はコアイメージによって展開する。「小さい」というコアイメージから兄弟の序列を表す用法が生まれた。兄弟のうち小さいほうの弟、特に四人兄弟なら伯・仲・叔・季と呼び、叔は三男である。また父の兄弟の小さいほうを叔父という。