「祝」
正字(旧字体)は「祝」である。

白川静『常用字解』
「会意。示は神を祭るときに使う机である祭卓の形。兄はᆸ(祝詞を入れる器の形)を頭に載せている人の形で、神を祭る人をいう。祝は祭卓の前で神を祭ることを示し、“いのる” の意味となり、また“いのる人、はふり、神官”の意味となり、のち“いわう”の意味にも使う」

[考察] 
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。示(祭卓)+兄(神を祭る人)→祭卓の前で神を祭る→祈る・祈る人という意味を導く。
字形の見方に疑問がある。「兄」の疑問については417「兄」で述べた。「ᆸを頭に載せている人」が存在するだろうか。祝詞は口で唱える言葉(音声言語)である。これを器に入れるには文字に写して竹簡・木簡や布などに書く必要があろう。祈りの内容によっては膨大な量になるから、大きな器や箱になるだろう。これを頭に載せるのは現実的には考えにくい。
祝の用例を古典に尋ねてみよう。
①原文:祝祭于祊
 訓読:祝祊に祭る
 翻訳:神主は祭場でお祭りする――『詩経』小雅・楚茨
②原文:愛我者惟祝我、使我速死。
 訓読:我を愛する者は惟(ただ)我を祝し、我をして速やかに死なしめよ。
 翻訳:私を愛するものはひたすら早く死ねとのいをかけて祈ってくれ――『春秋左氏伝』成公十七伝
③原文:請祝聖人、使聖人壽。
 訓読:請ふ、聖人を祝し、聖人をして寿ならしめん。
 翻訳:どうか聖人を祝福させてください。聖人が長寿でありますように――『荘子』天地
④原文:侯作侯祝
 訓読:侯(こ)れ作(おこ)り侯れ祝(のろ)ふ
 翻訳:[流言が]盛んに起こり人をのろっている――『詩経』大雅・蕩

①は神主の意味、②は神に祈る意味、③はめでたいことを祝う意味、④は神に不幸や災禍をもたらすように祈る(のろう)の意味で使われている。古典漢語では①~③をtiok(呉音・漢音でシュク)、④をtiog(呉音でシュ、漢音でシウ)という。これらを代替する視覚記号として祝が考案された。
tiokという語は禱(いのる)や道(いう)などと同源で、「声を長く延ばす」というコアイメージがある。神主が祝詞を上げる時の声の特徴を捉えた語である。しかし字形にはこれが反映されていない。字形は「兄(イメージ記号)+示(限定符号)」を合わせたもの。兄は頭の大きな人の形で、「あに」とは関係がない。示は祭壇の形で、神に関係があることを示す限定符号である。だから字形は神主が祝詞を上げる場面を設定したものである。これ以上の情報は含まれていない。
祝という図形的意匠によって①と②の意味をもつtiokの表記とした。神に祈るのは福を求める場合が多い。祝い事(善事)も福の一つなので、③の意味に転義する。神に悪事を祈ることもある。②の文献の祝も死を祈るから悪事に関わっている。特に邪悪・禍を求めて祈る場合には音を少し変えてtiogといい、④の「のろう」 の意味になる。後に呪ジュという字に分化した。