「淑」

白川静『常用字解』
「形声。音符は叔。叔には“よい” の意味があり、説文には水の清く澄むの意味とするが、淑は人の“よい、しとやか、うつくしい”の意味に用いる」

[考察]
叔に「よい」の意味があるから淑は「人がよい」の意味だという。しかし叔に「よい」の意味はない。
古典における淑の用例を見てみよう。
①原文:桀紂以亂 湯武以賢 涽涽淑淑
 訓読:桀紂は以て乱れ 湯武は以て賢く 涽涽たり淑淑たり
 翻訳:夏の桀王と殷の紂王はでたらめ、殷の湯王と周の武王は賢明。一方はどす黒く、他方は清らかだ――『荀子』賦篇
②原文:窈窕淑女 君子好逑
 訓読:窈窕たる淑女は 君子の好逑
 翻訳:美しくしとやかな乙女は 殿方のよき連れ合い――『詩経』周南・関雎

①は清らかに澄む意味、②は清らかで美しい、また、控えめで優しい(しとやか)の意味で使われている。これを古典漢語ではthiok(ӡiuk、呉音でジュク、漢音でシュク)という。これを代替する視覚記号が淑である。
淑は「叔(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。叔は「小さい」というイメージがある(830「叔」を見よ)。淑は水勢が小さくなり、じっと落ち着いて澄む状況を暗示させる。この図形的意匠によって①の意味をもつthiokを表記する。
②の文献が古いが、②の意味は①からの転義と考えられる。