「粛」
正字(旧字体)は「肅」である。

白川静『常用字解』
「会意。聿と規のもとの形とを組み合わせた形。聿は筆。規はぶんまわしで、もと象形的にかかれ、それがのちAの形となった。ぶんまわしによって輪郭をえがき、筆で仕上げて文様を加えることを粛という。ものに文様を加えておごそかに飾ることが、そのものを聖化する方法と考えられたので、“つつしむ、うやまう”の意味となる」
A=[淵-氵](淵の右側の字)

[考察]
字形の解剖にまず疑問がある。聿とAに分析するのが通説。Aはぶんまわし(コンパス)の形が変化したというが、あまりに形が違い過ぎる。意味の導き方にも疑問がある。「筆」と「ぶんまわし」を合わせた形から筆で仕上げて文様を加える→つつしむという意味が出るだろうか。意味の展開に必然性がない。
肅の古典での用例を見るのが先決である。
①原文:九月肅霜
 訓読:九月粛霜あり
 翻訳:九月には寒さで万物を引き締める霜が降りる――『詩経』豳風・七月
②原文:廣廷嚴居衆人之所肅也。
 訓読:広廷厳居は衆人の粛(つつし)む所なり。
 翻訳:広い庭やいかめしい住居は、誰もが身を引き締める所だ――『韓非子』難三

①は引き締まる・縮まるという意味、②は身を引き締める意味で使われている。これを古典漢語ではsiok(呉音でスク、漢音でシュク)という。これを代替する視覚記号として肅が考案された。
上の①の注釈には「肅は縮なり」とある。また古人は粛・宿・速を同源語としている。これらは「縮める」というイメージが共通にある。「間隔が縮まる」は物理的なイメージだが、「身が縮まる、引き締まる」は心理的・身体的なイメージである。これらは相互転化可能なイメージである。
肅の字源は「聿+A」がドッキングした形である。Aは淵の原字。聿は筆を手で立てて持つ姿を描いた図形。これによって「まっすぐ立つ、立てる」というイメージを示す記号とする(462「建」を見よ)。したがって肅は「聿(イメージ記号)+A(イメージ補助記号)」と解析する。崖淵の上に立って下に臨む情景を設定した図形である。この意匠によって恐ろしさで身を縮めることを暗示させる。かくて①②の意味をもつsiokを再現させる。