「俊」

白川静『常用字解』
「形声。音符は夋。夋は厶(耜の形)を頭とする神像で、背の高い神像であるから、高大・尊貴の意味がある。人の“さとい” こと、“かしこい”こと、才智がすぐれていることを俊という」

[考察]
字形の解釈に疑問がある。耜の形を頭とする神像とは何のことか。これがなぜ背が高いのか。夋に「高大・尊貴」の意味があるのか。すべて疑わしい。
俊は古典に次の用例がある。
 原文:俊民甸四方。
 訓読:俊民四方を甸(をさ)む。
 翻訳:優れた人が世界を治める――『書経』多士
俊は才能がひときわ抜きん出ている(すぐれている)の意味で使われている。これを古典漢語でtsiuәn(呉音・漢音でシュン)という。これを代替する視覚記号として俊が考案された。
俊は「夋シュン(音・イメージ記号)+人(限定符号)」と解析する。夋は「允+夊」に分析する。允はバランスよくすらりと立つ人を描いた図形。「均整が取れている」「すらりと立つ」「細長い」というイメージを表す記号になる。「允(イメージ記号)+夊(足の動作と関わる限定符号)」を合わせた夋は、両足を一つに合わせ、身を細めて、すらりと高く立つ情景を設定した図形。これによって「細く高く立つ」というイメージを表すことができる。このイメージは「ひときわ上に抜け出る」というイメージに転化する。したがって俊はひときわ高く抜きん出ている人を暗示させる。この図形的意匠によって上記の意味をもつtsiuәnを表記する。