「春」

白川静『常用字解』
「形声。もとの字は萅に作り、音符は屯。屯は織物の縁の糸を結びとめた房飾りの形で、純のもとの字である。屯は織物の縁の糸を結びとめた房飾りの形であるが、この字の中では、寒い冬の間、閉じ込めた草の根を意味している。それが日の光を受けてようやく芽を出そうとする意味で、艸(艹)を加えて萅となる」

[考察」
四季の名の起源については異説が多い。夏と秋については既に述べた(121「夏」、806「秋」を見よ。冬については809「終」でも触れている)。夏・秋・冬は植物と関係がある。季節における植物の状態から発想して命名された。春も同じである。
白川は屯を「織物の縁の糸を結びとめた房飾り」と解釈し、萅の字では「寒い冬の間閉じ込めた草の根」の意味だというが、この二つに何の関係があるのだろうか。非常に無理な解釈である。これは白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説こうとするからである。
形声の説明原理とは言葉の深層構造に掘り下げ、コアイメージを捉えて意味を説明する方法である。春は屯にコアイメージの源泉がある。
屯は地下に根が蓄えられ、芽が地上に出かかる情景を図にしたもの。屯は「中にずっしりとこもる」というイメージを表す記号になる(「屯」で詳述)。春は「屯(音・イメージ記号)+艸(=草。イメージ補助記号)+日(限定符号)」を合わせて、地下にこもっていた植物がやっと活動し始める情景を暗示させる図形である。この図形的意匠によって「はる」を意味する古典漢語t'iuәn(呉音・漢音でシュン)を表記する。