「旬」

白川静『常用字解』
「会意。勹と日とを組み合わせた形。甲骨文字は、尾を巻いた竜の形で、それだけで十日を意味した。一旬(十日間)の旬がもと竜の形で示されているのは、一旬の吉凶を支配するものが、この竜形の神であると考えられたからであろう」

[考察]
会意と言いながら「勹+日」の字形の説明がない。甲骨文字では十日の意味を竜の形で表したという。しかし一旬の吉凶を支配したのが竜形の神だというのは根拠のない臆説である。一か月を三等分した時間である旬を支配する神の存在は不自然である。旬のほかの年・月・日を支配する神があるだろうか。
白川漢字学説は言葉という視点が全く欠けている。旬は十日の意味のほかに下記の②の意味もある。白川学説ではこれを説明できない。言葉という視点に立って、言葉の深層構造を捉えることが重要である。旬は古典に次の用例がある。
①原文:雖旬无咎、過旬災也。
 訓読:旬に咎(とが)无(な)しと雖も、旬を過ぐれば災ひあるなり。
 翻訳:この先十日間はとががないと言っても、十日を過ぎると災いがあるだろう――『易経』豊
②原文:菀彼桑柔 其下侯旬
 訓読:菀ウツたる彼の桑柔 其の下侯(こ)れ旬(あまね)し
 翻訳:桑の若葉はこんもりと 下はあまねく陰をなす――『詩経』大雅・桑柔

①は十日の意味、②は全体に行き渡る(あまねし)の意味である。これを古典漢語ではdziuәn(呉音でジュン、漢音でシュン)という。これを代替する視覚記号として旬が考案された。
旬は「勹(イメージ記号)+日(限定符号)」と解析する。勹は均の右側の勻に含まれる勹と同じである。勹は腕を↺の形にぐるりと回す情景を設定し、「↺の形にぐるりと回る」というイメージを示す記号になる(383「均」を見よ)。旬は一月のうち一回りする日数を暗示させる。古代では十干で日を数えたので、十日が一回りである。だから十日をdziuәnといい、旬の記号で表記する。この語のコアには「ぐるりと回る」「丸く取り巻く」というイメージがある。
意味はコアイメージによって転義する。「ぐるりと回る」「丸く取り巻く」というイメージは「ぐるりと回って全体に行き渡る」というイメージに展開する。かくて上の②の意味に転義する。